
CSRコミュニケーションのトレンド
私どものCSRコミュニケーション協会(以下、当協会)では、CSRコミュニケーションのデジタル(ウェブ、インターネット)領域におけるコンテンツ調査を現在行っており、調査も最終段階となっています。1月末には正式に発表できると思います。
さて、そんな中で、先日、私の個人ブログにて以下の記事をまとめました。
・CSRコミュニケーションのトレンド予想(2017〜2018)
・CSRにおけるデジタルコミュニケーション品質とは
お時間がある時にお読みいただきたいのですが、CSRコミュニケーションのトレンドとして「デジタル化」が、デジタルコミュニケーションの品質として「ウェブアクセシビリティと読者視点」に注目すべき、という話でした。本記事ではもう少し、ここ数年の研究・調査の感想も含めてまとめます。
コミュニケーション評価の意義
書籍「CSRデジタルコミュニケーション入門」でも書きましたが、情報過多なデジタル社会においては「どこにいる、どんなステークホルダーに、どんな情報を、どのようなメディアで伝え、どのような反応を期待するのか」をより突き詰めて実践できる企業だけがステークホルダーから評価を得ることができ、社会では“CSR評価の高い企業”とされ、さらなる信頼を勝ち取ることができるようになります。
現代の主なコミュニケーション・ツールはCSR報告書ではありません。2000年代前半のCSR普及期より10年以上経ちましたが、すでに紙ベースのCSR報告書を取りやめ、ウェブ上の開示のみ(印刷は基本なし)とする企業もどんどん増えています。そんなご時世だからか、CSR評価の高い企業からウェブ上の情報発信を強めるため、CSRコンテンツ制作に本腰を入れ始めています。
ここらの調査・分析をしていると非常に興味深い事例を見つけることができます。
それは「CSR評価が高い企業 ≠ CSRコンテンツの品質が高い企業」という事実です。様々なアワード・ランキング・インデックス・調査などで、国内外でCSR評価の高い企業は国内に数十社程度ありますが、その企業群がCSRコンテンツ評価を行ったら上位を独占するかというとそうでもないのです。
評価機関から送られてくる調査表による回答のみを評価するインデックスなどもあり、CSRコンテンツが優れていなくてもCSR評価が高い企業は存在します。言い換えれば「評価機関・専門家の評価が高い企業 ≠ CSRコンテンツの品質が高い企業」という構図も成り立つということです。
でもちょっと待ってください。CSR活動は評価機関のためにするのではなく、本来はステークホルダーのために行うものです。評価機関の評価が高くても、他の主要なステークホルダーから信頼を獲得していなければ、意味がありません。ですから、CSRコンテンツの大部分は様々なステークホルダーの情報ニーズに応えるために、戦略的に網羅性をもって制作・運用する必要があるのです。
紙は物理的な制約があり、ウェブコンテンツは制約が基本的にありません。ですので、当然ながらCSRコミュニケーションにもデジタル化の流れが来ています。
では、ステークホルダーに評価されるにはどうしたらいいのでしょうか。
コンテンツを運用するということ
さて「コンテンツを運用する」というところまできましたが、マーケティングや広報をしていた方であれば、それは当然だろうと思われるかもしれません。しかし多くの企業のCSRコンテンツは、更新がめったにされず活用もされない情報の一つであるというのが現状です。
そうなのです。CSRコミュニケーションにおいては、なぜかPDCAの「P」と「D」だけしか実践されないのです。これはCSR報告書もCSRコンテンツも同じで、作ったら終わりなのです。で、制作後は次の年に発行する報告書の下準備に意識がいってしまうのです。数十万〜数千万円もかけて制作するのに、作ったら終わり。それで経営効果がないと言われても、そりゃそうですよね、としか言いようがありません。
本来のコミュニケーション・ツールは作ることより運用すること(PDCAをまわすこと)が重要なはずです。作ったCSR報告書やCSRコンテンツを「どこにいる、どんなステークホルダーに、どんな情報を伝え、どのような反応を期待するのか」を意識して、仮説・実践・検証を繰り返していく。そうやって始めて「エンゲージメント」が生まれるのです。
ステークホルダーに評価されたいのであれば、ステークホルダーが企業を評価するポイントを知るしかありません。ISO26000では「ステークホルダー・エンゲージメント」を非常に重要視していますが、私も同感です。エンゲージメントが唯一の評価向上施策といえるくらいです。
そこで、昨今のCSRコミュニケーションのトレンドとなっているデジタル化の流れに、どれだけの企業が気付けるのか注目しています。今動いて、PDCAサイクルでノウハウを貯める企業と、数年後に、競合の動向に気がついて慌てて対応する後手後手の企業の差は、すごいことになるでしょう。
今、デジタル化に対応しない企業は数年後、対応を少しずつ始めている競合に「追い越せない差」がついたところで本気になっても遅いのです。まずは専門家による現状分析などが有効ですが、そうでなくても、まずはセルフチェックなどをして確実に過不足などを見つけておきましょう。
様々な視点で書いてきましたが、まとめると、CSRコミュニケーション活動においてもPDCAサイクルをまわし、仮説・実践・検証を行いましょう、ということです。当然すぎる帰結ですが、基本的なことは意外に重要視されないのです。だから大企業でもCSR評価に差がでるのです。大企業は派手でインパクトあることが大好きなので、地味の極みであるPDCAサイクルを実践したがらないのかもしれません。(そうでない企業もあります)
ちなみに当協会でも「第三者CSRコミュニケーション評価」を行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
執筆者:安藤 光展
サステナビリティ・コンサルタント
専門は、CSR、SDGs、サステナビリティ情報開示。著書は『創発型責任経営』(日本経済新聞出版、共著)ほか多数。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。大学卒業後、ネット系広告会社などを経て2008年に独立。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションに、大手上場企業を中心にサステナビリティ推進支援を行っている。