
CSRコミュニケーション協会のアドバイザーを務めます猪又です。このブログでは、「CSRデジタルコミュニケーション入門」に書かれている内容の補足や分量的に追加できなかった内容を含めて、日々感じたCSRコミュニケーションについてお伝えします。
先月は、ESG投資にとって重要なコンテンツである「G」の「トップメッセージ」についてお伝えしましたが、今月は逆に、なかなかESG投資に繋がりにくいと言われている「E」の部分である「環境の取り組み」について考えていきたいと思います。私も2012年度から東京商工会議所のeco検定アワードに関わっており、2015年から審査員として、個人、法人の多くの環境活動の審査をしてきましたが、そこで感じたことを踏まえてお伝えできればと思います。
企業ができる「環境への取り組み」はそれほど多くない
まずは、宣伝ということで(笑)、「eco検定アワード」について改めてご紹介させて頂きます!「eco検定アワード」は、eco検定(環境社会検定試験)に合格したエコピープル、そのエコピープルが二人以上集まってできたエコユニットが、1年間を通じて実施してきた環境活動を報告してもらい、その中から特に優秀な活動を表彰しています。今年も審査員として私も参加する予定ですが、今まで見てきた個人や法人での「環境への取り組み」は、下記に集約されるような気がします。
(1)本業での環境への取り組み(CSV)
①環境負荷低減を考慮した商品、サービス(売上増加)
②サプライチェーン上での環境負荷低減(コスト削減、リスク低減)
・CO2削減、CSR調達、グリーン調達、資源循環、省エネなど
(2)本業以外での環境への取り組み
①植樹、森林保全、緑地保全
②地域への清掃活動
③資源循環活動(雨水利用、ゴミの分別、ペットボトルキャップ収集など)
④省エネ活動(グリーンカーテンなど)
⑤リユース活動(マイ箸、マイバック、マイカップ、事務用品のリユース、コピー用紙の再利用など)
⑥環境教育・環境イベント参加(eco検定支援、出前授業など)
⑦生物多様性の取り組み(絶滅危惧種の育成など)
⑧寄付・コーズリレーテッドマーケティング(売上の一部を寄付など)
環境活動の取り組みの定義については、私の以前の記事の「CSR活動の定義」を確認いただければと思いますが、やはり、「活動」という言葉に引っ張られるのか、「本業以外での取り組み」をイメージされる個人、法人が多く、更に、その活動範囲はある程度限定されている状況です。また、それらの活動は企業ごとに差別化が難しいこともコミュニケーションするうえで難しくさせているようです。
「○○の森」の記事を読んで誰が喜ぶのか?
そもそも企業の「環境への取り組み」についてステークホルダーはどれだけ関心を持っているのでしょうか?例えば、「アサヒの森」「ライオン山梨の森」「三井物産の森」・・・・など、「○○の森」と名付けて、企業が森林を支援している環境活動は非常に多いのですが、皆さんはその記事について真剣に読む機会はありますか?おそらく、よほどのマニアでない限り、その記事を読むことはないでしょう。ましてや、その記事のために毎回企業ページのチェックしている人はほぼ皆無なのではないでしょうか。おそらく毎回見ている人はそこに参加している当事者ぐらいで、通常であれば、たまたま何かのきっかけで目にするぐらいなのが実情でしょう。(ちなみに、森サイトに更新情報がありますが、個人的には、上記の理由により必要ないと思っています。)
(1)伝えるターゲットが何を考えているのか?
やはり、その時に必要なのが、ターゲット設定だと思います。それぞれのステークホルダーにとって、どのような環境への取り組みが知りたいのでしょうか?仮に、投資家や消費者が「○○の森」の記事を読んだときに、どういう視点でその記事を読んでいるのでしょうか?伝える相手の気持ちを掴むことで、伝え方がきっと変わってくるはずです。例えば、「○○の森」の記事について個人的に考えてみました。あくまでも個人的な意見ですので、ご自身でも是非考えてみてください。
①投資家は「○○の森」をどう見ているのか?
企業としてCO2削減への対応についてリスクがないのかを知りたい。なぜなら、今後炭素税などが導入された場合、企業から出てくるCO2量は減益要因になると思われる。森林を支援することで、そのオフセットができれば収益に影響は与える要素は低減されるから。
→森のCO2削減効果を伝えるべき
②消費者は「○○の森」をどう見ているのか?
森林などの環境に配慮した信頼ができる会社かどうか判断したい。(単に、儲け主義の会社ではなく、社会に還元しているのか?)なぜなら、森林などの環境に対するきっちりとした対応は、おそらく、商品やサービスを提供する上でもあらわれてくるはずだから。
→なぜ森を守るのかを企業姿勢を伝えるべき
(2)総花的ではなく、メリハリをつけて伝えるべき
企業でよく見られるのが、様々な「環境の取り組み」を一枚の写真と数行のコメントだけ掲載して羅列している場合があります。そういうコミュニケーションはやめるべきです。例えば、「○○の森」というぐらいにお金をかけている取り組みでしたら、やはり、特設ページを作成するなどして、しっかりとコミュニケーションを図るべきでしょう。もちろん、他の環境活動も同様に、特設ページを作るのも一つの手ですが、できるだけ、「あれもこれもやっている」というのではなく、メリハリをつけてコミュニケーションを図っていくことも必要なのではないでしょうか?そして、何よりも大切なのは、その活動はあくまでも人が主体で実施していることですので、そこへ参加している人のインタビューなど、しっかりと想いを伝えるべきだと思います。
まとめ
今見てきたように、「環境への取り組み」は、投資家に対して何を伝えたいのかをあらかじめ意識すれば、ESG投資に影響を与えることができると思います。ただし、その際には、コミュニケーションの工夫が必要であり、それがないと全くESG投資にも影響を与えない結果になってしまうのです。料理に例えるならば、いくら良い素材を仕入れてきたとしても、結局誰のために、どんな料理を出すのかを事前に想定しておかないと、その人にとっては全く興味がない料理になってしまうのです。例えば、子供に対して、いくら高い素材を使って料理していると主張しても、やはり、料理の見た目には叶わないわけです。あなたの企業は、「投資家から資金を集めるために、どんな環境への取り組みをどのようにコミュニケーションされていますか?」その答えが明確にいえるのでしたら環境コミュニケーションは完璧なはずです。
話が変わりますが、毎年、eco検定アワードの審査でたくさんの方々からのエントリーシートを読んでいますが、せっかく素晴らしい環境活動をされているのに、報告書の伝え方で損をしている方々が多くいらっしゃいます。実にもったいない話です。是非、ターゲットを意識したコミュニケーションを心掛けてもらえると嬉しいですね。
さて、7月も残りあとわずかです。CSRコミュニケーション協会では、現在あるプロジェクトが進行中です。その発表については9月頃には発表できますのでお楽しみに!私も夏休みの宿題が2つ(①eco検定アワードの審査、②CCAのプロジェクト)ありますので、早速取り掛かることにします。また、来月お会いしましょう!
※本投稿は個人の見解であり所属する組織・
執筆者:猪又 陽一
早稲田大学理工学部卒業後、ベネッセコーポレーション入社。その後、外資系ネットベンチャーやリクルートエージェント等で新規事業立ち上げ後、現在、環境・CSR分野におけるコンサルティング会社で法人企業への教育などを担当としている。著書:『CSRデジタルコミュニケーション入門』(インプレスR&D、共著)